フランス /冬の国民食 ラクレットの楽しみ方
スイス発祥のラクレットといえば、大きなラクレットの塊を溶かして、あつあつのチーズを食材にかけて、ほくほくしながら食べるイメージです。本場ヨーロッパでは、もっと気軽に、手軽にラクレットを楽しんでいるようです。
フランス ヴェルノン在住(印象派の画家、モネの睡蓮で有名なジヴェルニーのお隣の街です)吉田裕美子さんにフランスでのラクレットの楽しみ方について、教えてもらいました。
フランス冬の風物詩ラクレット
寒い冬の日に何か温かいものが食べたくなるのは古今東西変わりませんが、ここフランスで冬の食卓と言えば外せないのがラクレットです。そう、日本でもかなり浸透してきている、あのとろりととろけたチーズの料理です。「ラクレット」という名前はチーズの名前でもあり、またそのまま料理の名前でもあります。
こちらでは「そろそろ冬がやって来そうだ」という季節になると、フランスのチーズ専門店では看板にラクレットの文字を書いて冬の食卓の風物詩が到来したことを知らせます。スーパーではチーズコーナーをラクレットが占めるようになり、そして家庭では、戸棚を開けて家庭用のラクレットグリルを引っ張りだすのです。
意外と新しいフランスでのラクレットの歴史
12世紀にスイスの羊飼いたちが始めたと言われるラクレット。そもそもの名前は”fromage rôti”、つまり「ローストチーズ」 だったのだとか。暖炉など火の近くにチーズを置いて溶かしたから、というのが由来だそうです。それが「こそげる、削る」という意味のフランス語”raclette”に変わっていくのが19世紀後半。そして、スイスの山間で生まれたこの料理が、国を代表する料理となった頃でもありました。
さて、そのラクレットが隣国フランスで人気を博し始めたのは意外にも遅く、1970年代のことなのだそうです。その普及にひと役買ったのが、家庭用ラクレットグリルの誕生です。さらにグリルに合わせてスライスされたラクレットチーズの販売開始。今ではフランスの冬になくてはならない料理になりました。たしかに大きなチーズの塊を少しずつ溶かすとなると、いくら美味しくても少々面倒ですが、グリルがあればぐっと手軽にラクレットを楽しめます。食材を選べば、立派な時短料理にもなるのです。
ラクレット王道の食材
フランスではラクレットの食材に野菜はあまり使いません。じゃがいもの他は、せいぜい、小ぶりのきゅうり(コーニッション)や2cmにも満たないような小玉ねぎのピクルスくらいです。チーズに彩り豊かな野菜を入れるのは、王道のラクレットではないそうです。
では王道の材料とは何でしょう。それはもちろんチーズ、じゃがいもとシャルキュトリー(ハム、ソーセージ類)です。この3つが伝統的なラクレットの組み合わせであり、「これさえあれば後は何もいらないでしょ」というのが一般的なフランス人の感覚と言えそうです。
懐が深いラクレットのチーズ
とはいえ、わたしは食卓に野菜の姿がないと落ち着かないので何かしら用意します。先日のラクレットでは、ブロッコリーとマッシュルーム、そしてしいたけ(最近、フランスでも一般的になりつつあります)を添えてみました。以前日本人の友人宅でのラクレットにお呼ばれした時には玉ねぎやパプリカが登場しましたが、とても美味しかったです。チーズは懐が深いですね。
スライスラクレット
家庭でのラクレットでは、手軽な「スライスラクレット」を使うのが主流です。チーズ専門店で手に入るのはもちろん、スーパーでもいろいろな風味のついたものが売られていて目移りするほどです。スモーク、白ワイン、エシャロット、きのこ、マスタード、クミン、チリペッパー、粒こしょう、にんにく、そして花で香りづけされたものまで。フランス人のラクレット好きが高じて、様々な風味のチーズが作られているのです。
フランスラクレットの必需品ーラクレットグリル
スライスされた1枚のチーズの大きさはおおよそ7cm〜8cm角、厚さは3mm程度。これを扇形のミニパンに乗せて、熱々のグリル本体の中へ入れると、ほどなくしてチーズがとろとろに溶けてきます。家庭用ラクレットグリルのいいところは、自分の好きなようにチーズの焼き加減を決められること。とろりとしたチーズや少し焦げ目をつけたカリカリなチーズ、といろいろなチーズの食感を楽しめるのです。
さてチーズが好みの状態になったら、小さな木製のスパチュラでミニパンからこそげ落とし、じゃがいもなどのつけ合わせの上にかけていただきます。ちなみにラクレットでの一人分のチーズの量は、平均200g〜250gくらいです。
我が家では、軽く10年は経つだろうという年季の入ったラクレットグリルを使います。直径30cmの円形で、個別にチーズを入れて焼く扇形のグリルが6つはまります。その上には丸いプレートを乗せるもう一つの層があって、そのプレートの上であらかじめ蒸しておいたじゃがいもを温めたり、お肉や野菜などを加熱調理することができるのです。
ラクレットのこだわりは、じゃがいも
じゃがいもは、わたしがフランスで美味しいと思った野菜の一つ。驚くほどたくさんの種類がありますが、我が家のラクレットでは小ぶりのじゃがいもを皮ごと圧力鍋で蒸したものを使います。そのほか、皮つきの大きなじゃがいもをオーブンで焼いた”robe des champs”(「畑のガウン」という名前が可愛らしいです)をラクレットの相棒にする人も多いです。
ラクレットといえば、シャルキュトリー
そして忘れてはならないのがシャルキュトリー。シャルキュトリーとはハムやベーコン、ソーセージなどの食肉加工品です。フランスの食文化を代表する食材で、種類がとても豊富です。その中で最近、我が家がラクレットに使ったのは、ハム、生ハム、ロゼット(サラミのよな見た目、でももっと大きくて薄い)、ピスタチオ入り鴨のバロティーヌ(鴨肉などの詰め物を鴨の脂身で巻いたもの)、グリソン(牛肉の生ハム)などでした。
これだけのものを食べた後はもう、お腹がパンパンになります。チーズやじゃがいもをたくさん食べるのですから。まさに山の羊飼いたちが寒い冬を越すための料理です。
ラクレットは日本のお鍋!?
ある日、「それ僕のチーズだよ」「ねえ、じゃがいも取ってくれる?」などとわいわい話しながらラクレットをしていた時のこと。ふと、「あれなんだかこの感じ、日本のお鍋に似ているな」と思いました。寒い日に家族や友人たちが食卓に集まって、一つの温かい料理をみんなで囲みながら、あつあつをはふはふ言いながら食べる ― お腹が温まって、そして心も温まる。ラクレットもそんな料理だと思うのです。
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プロフィール
吉田裕美子
フランス・ノルマンディー地方の小さな町、ヴェルノン在住。フランスの人々の「楽しむ」精神に触発されて、日々料理すること、食べることに喜びを見出しています。最近、フランスの食まわりについてのブログ「マリアージュの国、フランスのおいしい食卓」を始めました。