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Stories #2 フレンチ料理家 掛川哲司氏

Stories #2 フレンチ料理家 掛川哲司氏

フレンチレストラン「au deco」(東京・広尾)でミシュランの星を獲得。カジュアルフレンチの「Ata」、人気カレー店「GOOD LUCK CURRY」や東京ミッドタウン「Värmen」など数多くのレストランやカフェをプロデュースする多才な掛川哲司シェフ。

フレンチの魅力、旅、レストランの活用方法や食器の選定方法など、日常をより豊かに楽しむためのエッセンスを伺いました。

au decoでミシュランの星獲得、おめでとうございます。率直なご感想は?

嬉しかったです。素直に。料理の世界に入って、20年以上ですが、やっと獲得できたというのが実感です。フレンチ料理人にとって、ミシュランの星はまさに憧れですから。

僕が若くてまだスマホなんてない時代に、ミシュランとともにフランス全土を旅してましたので、さらに思い出深いです。その本に掲載されることを心から嬉しく思っています。

当時、フランスの旅ではどんなことを感じましたか?

よく、テロワール(フランス語で土地)って僕は言うんですけど、そのテロワールの香りや味を感じることができました。例えば、ブルゴーニュのワインを飲むと、当時のブルゴーニュの景色が蘇ってきます。ワインにもそのテロワールが現れていますし、チーズにもテロワールの香りを感じます。南仏に行って、南仏のワインを飲んで、南仏のチーズとハーブを食べると、南仏の太陽の香りを日本にいても思い出すんです。

僕は20代前半に何度もフランスへ行きました。一度行くと大体3ヶ月位は滞在するのですが、その期間はただ旅をし、そして食べました。ある意味、贅沢な旅です。その旅でフランスが大好きになったこと、そしてフランス食文化への敬意の念が今の原点になっていると感じます。

特に印象に残っている土地は?

やはり、南仏です。気候も温暖で、食事もおいしい。美術館も多いです。ピカソもシャガールも晩年を南仏のプロヴァンスで過ごしていました。セザンヌも南仏ですね。美術館を回りながら、美味しいものを食べるというのは最高でした。

ボルドーへも行きましたが、南仏とは違い、どんよりとした天気も多く、湿度もあります。気候も街並みも重みを感じる印象でしたが、なるほど、ボルドーワインはこの環境だから作られるのだと理解しました。

ドイツ国境近くのストラスブールを訪問した時は、冷厳な佇まいの中にどこかドイツの文化を感じましたね。フランスはそれほど大きな国ではないですが、いくつかの国と隣接しているので、いろんな文化が混じっている。ニースではイタリアの香りがしますしね。

国境界隈は、面白いですよ。そんな多くのテロワールを感じる場所が印象的に残っています。

とても、気さくで、親しみやすい掛川シェフ。フレンチの話では、思いを熱く語る情熱家の一面も。

フレンチ料理の魅力ってなんでしょうか?

au decoとAtaはフレンチですが、その他にカフェをやったり、実はカレーブランドを持っていたり、クレープ屋も手掛けています。その中で多くの商品開発をするんですけども、フレンチの技術が大いに役に立っています。フレンチっていうのは、技術的に幅が広いです。フレンチを知っていれば、できることが沢山ある。それが、フレンチの魅力です。

例えば、カレー鍋の中で何が起きてるかっていうのを明確に理解しているのがフレンチ技術の特徴です。感覚としてだけではなく、鍋の中の油の状態や舌への味の残り方というのをフレンチでは理解して作る。そういう意味でとても幅の広い、応用力のある料理です。

また、フレンチの考え方は、掛け算だと思っています。食材と食材を合わせて、どんな化学反応が起こるか、それにワインを合わせたときにどう広がりができるか、掛けながら考えていく。ただ掛け算があべこべになるととんでもない数字になるから、自分の目指した数字を、どう掛け合わせるとできるかという点が、興味深いところだと思います。

フレンチ料理といえば、ワインという印象です。日本でもワインのテイスティング用語を聞く機会が増えた気がします。

フランス人はブランドを作るのがうまいと思います。ブランディングとして、テイスティング用語を作り、それを世界中に広めました。結果として、ワインと言えばフランスワインという印象につながります。

例えば、ブルゴーニュでは、ピノノワールしか作らないと決めると、ブルゴーニュはピノノワールワインの産地になるというように、ブランド作りが凄く上手い。フレンチ料理だけでなく、アパレルも同じです。これもフランスの面白さかもしれません。日本酒にワインのテイスティング用語が浸透したら、それこそ、フランス人の思う壺って感じですね(笑)

ワイン業界では、ナチュール(ナチュラルワイン)が若い世代を中心に流行っているようです。

ナチュールはここ十数年で出てきた新しい潮流だと思います。僕はワインの”幅”かなと思っています。僕の実家がワイナリーで、弟が醸造をしています。彼が10年ほど前からナチュールのブランド作り始めています。先日、ナチュールブランドを作った理由を聞いてみました。「自分のクリエイティビティを反映させたかった」と彼は言っていました。

今、若い世代、多くの情報が飛び交う中で、子々孫々と受け継がれてきたクラシックワインをこれからまた100年、200年と同じ方法で作り続けることにストレスを感じているのかもしれません。自分を表現したいという欲求をナチュールという新しい潮流を通じて模索しているのかもしれません。それは醸造家としての成長のステップだと僕は思っています。

飲み手側としては、今までのクラシックワインに新たな選択肢が増え、ワインの楽しみが増えたと思っています。

ただ、如何せん、日本人は凝り性ですからね。将来、日本中でナチュールを飲むっていう風潮になれば、それは如何なものかなとは思っています。

自宅で気軽にフレンチを楽しむにはどうすればいいでしょうか?

フレンチ料理というと、堅苦しい印象がある方も多いのかもしれません。でも実は懐が深い料理です。簡単に作れる料理も沢山あります。例えばサラダニソワーズ(ニース風サラダ)はアンチョビとオリーブをのせるだけ。あとは、パン・ド・カンパーニュ(フランスの田舎風パン)にスモークサーモンを合わせると、それだけで十分フレンチ料理です。そして、飲み物をワイングラスに入れ、フレンチ風の食器をつかって、チェックのテーブルクロスで、シャンソンなんかをかける。食だけじゃなく、雰囲気全体として楽しめるのもフレンチ料理と言えるかもしれません。

「イサキとアサリの青唐辛子煮込みニース風」取材後、南仏料理をご紹介頂く。ピリリと辛味が効いて、魚介の旨みたっぷりのお手軽フレンチ。

日常生活の中での「レストランの役割」ついて教えて下さい。

一言で言うと、生活に張りをつくるものです。お祝いや特別な日など、数ヶ月に一回利用するレストランもあります。でも、レストランの役割ってそれだけではなくて、週に一回とか、なんなら毎日とか、まるで自分の家のような位置付けで、自分のご飯をつくってくれる場所としてレストランを使ってほしいです。レストランとお客様はそんなシンプルな間柄でいたいと思いますね。

このレストラン(Ata)は、ひとりのお客様も数多くいらっしゃいます。自宅でも食事をするけど、実は自宅での食事より、Ataでの食事の方が多いという方もいらっしゃいます。お客様の中では、きっとAtaが「もう一つのダイング」で安心できる場所と感じて頂いているのかもしれません。それは僕にとって本当に幸せなことです。

人々の暮らしの中で、レストランは必要不可欠な場所です。人間は、当たり前ですが、だれでも食事をします。その本能的な欲求を安心できる場所で満たしたいのです。その場所で、家族や親しい友人と一緒に、人間の生活の基本であるコミュニケーションを取るというのは、生きていく上でとても大切で、そして素敵な時間ですよね。レストランはそんな場をより高める役割でありたいと思っています。

多くのレストランを開業されています。食器やグラスはどのように選定しますか?

ストーリーがあるものです。どこで作られているのか?どのような歴史、背景があるのか。そしてコンセプトです。例えば、au decoでは「伝えること、つなぐこと」がコンセプトですので、ヨーロッパの歴史ある窯元のマイセンだとか、ロイヤルコペンハーゲンなんかをベースに選定しています。

あとは、気に入った食器を買うっていうのがすごく大事な気がします。よく、骨董市にいくのですが、いいものに出会うと、その時に買っておかないと後で後悔しますので、絶対買いますね。お気に入りを買って使うことが大事です。箪笥の肥やしにならないよう、いつも目につくところに置いています。

食器に合わせた料理をつくることはありますか?

あります、全然あります。料理を作りながら、どの食器が合うかなと考えますし、この食器にはどんな料理が合うかなとも考えます。反対に料理に合わせた食器を買うことはないですね。食器によって料理の見え方が大きく変わるので、食器にはすごくこだわっています。

掛川シェフお気に入りの食器

佇まいが美しい白磁のアンティーク食器。

これは少なくとも70年以上前の食器なんです。日本で戦前に輸出していたものが、第二次世界大戦が始まって、輸出ができなくなって、おそらくそれを納屋なんかに保管しておいたものが最近でてきたものです。僕はこの曲線部分がすごく好きです。最近の食器では、こんな曲線の食器は絶対に出てこないです。その時代の背景とか香りを感じます。これ、もちろん、全部デッドストックなんですけど、このレストランでは、ちゃんと取り皿として使っています。その皿の使い方を決めすぎると、何故か料理と皿が噛み合わない。日常的に使い続けることで、この皿たちが生きて、自然と料理を引き立ててくれると思います。

掛川哲司シェフ

箱根「オーベルジュ オー・ミラドー」や「NARISAWA」などフレンチの名店で修業を積み、「デイルズフォード・オーガニック青山店」でシェフを務める。その後独立し「Ata」をオープン。さらに活躍の場を広げ「au deco」「GOOD LUCK CURRY」「Varmen」など、様々なジャンルで話題のお店を多数展開。

取材地:Ata(アタ)

ミシュランガイド ビブグルマンに選出されるなど、人気のフレンチレストラン。魚介類を中心としたメニューに白ワインが楽しめる。おひとりでも、家族や友人とも楽しめるカジュアルな雰囲気が魅力のレストラン

食べログ:
https://tabelog.com/tokyo/A1303/A130303/13150975/

住所:東京都渋谷区猿楽町2-5 佐藤エステートビル 1F