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Stories #3 中国料理 京、静華 シェフ 宮本静夫氏

Stories #3 中国料理 京、静華 シェフ 宮本静夫氏

25年続いた浜松の中国料理の名店「静華」は、2008年に京都で「京 静華」として再始動。2019年の大規模改装を経て、翌年ミシュラン一つ星を獲得。進化を続ける中国料理店として常に注目を集めています。新たな展開に挑戦し続ける宮本静夫シェフに、京都で味わう中国料理の魅力、休業中に訪れた旅先での出会いなど、さまざまなお話をうかがいました。

京都で「京、静華」を始めようと考えたきっかけを教えてください?

浜松で「静華」をやっていたときに、もともと構想があったわけではないです。静華を閉めてから、1年間北京に留学をしていました。そのときに、城郭や寺院、胡同(フートン=路地)だとか、色々な古いものが点在している北京の街並みにとても歴史を感じたんです。そうした中で、思い浮かんだのが京都です。北京のように、歴史の深さをがそこかしこに感じる京都の街で中国料理の店を始めるのは、非常に意味があることだと思いました。

京都に来た当初と現在でご自身に変化はありますか?

基本的な考え方はあまり変わっていないですが、京都の街の良さを、少しずつ色々な面からわかってきたかなというところはありますね。京都はもともと観光に来る方も多いし、京、静華にも本当に色々なところからお客様が見えてくださって。ひとつの場所にいながら世界ともつながっている。京都は本当に国際都市なんだなという感覚を持つようになりました。

北京で生活をしていたときに印象に残っていることはなんですか?

老北京(ラオペキン)といって、昔ながらの北京風というか、市井の人びとが愛してきたB級グルメみたいなものがとても素朴で印象深かったですね。たとえば、緑豆の春雨を作る工程で出てくるおからだとか、そのおからを浸したしぼり汁とか、それらをすべて小吃(シャオチー=スナック)に変えていく。本来なら廃棄されるようなものでも、それを無駄なく使って、独特の味わいに仕上げていくんです。あとは、豆腐ひとつとってみても、食べ方がとても豊富で。朝食にする温かいおぼろ豆腐のようなものや、凍らせた豆腐を煮込んでみたり、押しつぶして平たくしたり……。

レストランの食事だけでなく、そうした小吃や庶民の食への探究心や文化に触れて、伝統的な料理の奥深さをより深く知ることができたと思います。

北京で見つけたという中国のアンティークの食器たち。

京都の昔ながらの家庭料理のおばんざいも、「始末」といって食材を無駄なく使い切ることを心がけたものですよね。そこも北京の小吃に近いものがありそうです。

そうですね。私は中国の古い時代の文献を紐解いてレシピを再現するということをずっと続けています。そのときそのときで、料理全般のブームや、中国料理というジャンルに限った中でも色々な流行があります。そうした表面的な流行にとらわれず、広く人びとに愛されてきた料理は、いつから始まって、どんなふうに世間に広まっていったんだろうと。そんなことを先人たちの記録から学び取れたらと考えて続けている試みです。

その中で意識していることは、必ずしも”古いことがいいことだ”ということではなくて、大切なのはそこから先だということです。「こんなやり方があったんだ」「こんなふうにしてきたんだ」がわかれば、逆に「こうすることもありなんだ」というアイディアが生まれてくる。古いことを知ることで、必ず先につながっていく。それがこの学びの一番大きな目的ですね。

2021年でオープンから13年目となります。一昨年、思い切ってテーブル席をやめ、カウンター10席にがらりと改装を行ったのはどんな理由があったんですか?

年齢的な面もあって、だんだん「まあこれでいいか」になってしまうのがイヤだったんです。やっぱり何度も蘇って、変えていかなければと思いました。カウンターで、お客様と対面して料理をお出しする。自分自身、どこまでできるんだろうという挑戦的な気持ちがありましたね。

栗の木の一枚板でできたカウンター。目の前で料理が仕上がっていくライブ感を味わえる。

改装期間中は、ヨーロッパを旅して見聞を広げてきたそうですね。

フランスやスペインを周って、念願だったお店にいくつか行ってきました。星付きのグランメゾンから、マルシェの中にあるスタンドみたいなお店まで、本当にさまざまな料理を味わってきました。ほぼ、食が中心の旅で、観光らしいことといえば、パリのルーヴル美術館くらいでしたね。

スペインは、バスクとバルセロナに行きました。チュレタと呼ばれる骨付き熟成肉の塊を岩塩を振って直火で炙る、だたそれだけの料理のために、山奥に世界中からお客さんが来るレストランがあったり。サンセバスチャンでは、日が暮れていく海岸を歩いてバルに行ったり。それぞれ、ロケーション込みで非常に印象深かったですね。

そういった経験が京、静華の料理に生かされている部分はありますか?

たとえば、三つ星レストランのしっかりした料理の構成はオーケストラです。各パートがしっかりしていて、出来上がったものはシンフォニーになる。これはすごい、となるようなものです。わたしたちは逆に、小編成もしくは街角の弾き語りのようなもの。そうすると、スペインのバルやパリのマルシェには、素材面でとても参考になる部分がありましたね。

ただ、グランメゾンのホスピタリティは真似できないけれども、料理の緻密さという点では、わたしたちも同じようにお客様に響くところはあるんじゃないかなと思っています。

京都は地元の方だけでなく、他の地域から来るお客様も多いと思います。「京都で食を楽しむ」ことの意味は、どんな面で意識されていますか?

京野菜など、地元の食材ももちろんなのですが、うつわもとても重要だと考えています。京都の伝統工芸として、清水焼などの焼き物、漆器、また骨董屋さんもたくさんある。和食器は、中国の古い時代の染付にルーツがあったりして、逆に中国っぽいと感じるところも多々ある。浜松にいた頃は、いわゆるヌーベルシノワの特徴的なボーンチャイナの白皿を中心に使っていましたが、京都に来てからはお椀や小鉢など和食器を意欲的に使っているところがあります。

自分自身、「京都らしさ」とは、四季の移り変わりに応じて色々なものをその時期に合わせて整えていくという考え方だととらえています。ですので食材や食器だけでなく、季節の花や室内のしつらいで、京都らしいというところを感じていただけるように意識しています。

奥の漆の皿は赤木明登氏、手前の小鉢は二階堂明弘氏の作品。

日常生活の中で「レストランの役割」はどういうものだとお考えですか?

それについては、現在のコロナ禍の状況で、自分たちもあらためて考えさせられることが非常に多かったです。”食べる”という行為を中心にして、そこへ行って楽しむということ。仕事がものすごく忙しかったけど、おいしいものを食べてちょっと元気が出たとか、ちょっと気持ちが上向いたとか。「行ってよかった」という喜びを感じていただけたら本望だなと思うんです。非日常であるけども、日常にもつながっていく。そこに行けば、飲んで食べて、人生を楽しめる場なんだよという。食べることと楽しむということが、心の回復や人生の豊かさにつながる、そのために自分たちの仕事があるんではないかなと思っています。

宮本静夫シェフ

1983年に静岡県・浜松市で「静華」を開業。店の営業のかたわら、香港や台湾、北京など各地の料理の現場で研鑽を重ねる。その後、50代半ばでいったん店を閉め、北京での留学生活を経て2008年に京都で「京、静華」をオープン。

取材地:京、静華

住所:京都府京都市左京区岡崎円勝寺町36-3 2階
電話番号:075-752-8521
営業時間:17:00から、19:30からの2部制
定休日:月・火(不定休あり)

Writer

本宮丈子

京都在住のライター。広告制作を経てフリーランスの編集者兼ライター兼コピーライターとなる。Web・紙媒体問わずさまざまなジャンルで執筆中。